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『ある奨学生の一生」-ソルトの広報誌を読んで

今年の5月にソルトから「ソルト・パヤタス通信」という広報誌が発行されました。

私はこの広報誌を何気なく読んでいたのですが、

『マニラ便り』という記事を読んで、思わず胸にこみ上げてくるものがありました。


今日はその記事をご紹介します。



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『ある奨学生の一生」


アウトゥーロ君は、ソルト第一期1995年の奨学生です。
彼は普通の子なら、ほぼ小学校卒業という年齢である12歳から小学校一年生をはじめました。

途中、1学年の飛び級ができたものの、同級生は小さい子供ばかり。
制服はショートパンツですから、一人だけ大きな体ににょっきり伸びた長い足が目立って、いつも恥ずかしそうにしていました。

家族は両親と10人の兄弟。
観光地として有名なセブ島近くのマスバテ島というところから一家でマニラにやってきました。父親は、5歳のときサトウキビ絞り機に手を挟まれ、それ以来右手が変形し、あまり使えません。
親戚の伝で、しばらくは工事現場で建設作業員として働いていましたが、安定した収入が得られず、93年にパヤタスにやってきて、ゴミ拾いの仕事をはじめました。

小学校しか出ていない母親も、父親を支え一緒にゴミ拾いをしていました。

たまにゴミ捨て場に登ると、たいてい彼の姿を見つけました。
いつも決まって、父親か兄弟と一緒に真っ黒になって働いていました。
1997年スタディーツアーをできた時も、彼の姿はありました。

その日、偶然ゴミの中から、まだ新しい菓子パンを見つけた彼が、それを弟と半分個し、それを食べながら仕事をしているのを見てしまいました。

挨拶に行こうと近づきかけたものの、手でパンをすっぽり覆い、うつむきながら食べている彼に、私はどんな顔をして話しかけていいか分からず、結局そのときはすぐにその場を去りました。

思春期に差し掛かった彼に、今のことを一部始終みていたかのごとく声をかけるのは、とても残酷なような気がしました。

そんな彼も高学年になって不良仲間に入り、空腹を忘れるために、将来の絶望を忘れるためにシンナーをやるようになりました。

体は痩せ、態度も悪くなり、護身用のナイフが学校で見つかり、停学にまでなりました。

辛い現実から逃げるため、貧しい地区の少年たちがシンナーや安い麻薬に手を出すのは珍しいことではありません。
彼も5年に及ぶゴミ山の生活に疲れ、それ以外の世界を味わっても見たかったのでしょう。

せっかくこの間がんばってきたのだけれども、本人に意欲がなくなってしまったら、他人にはどうしようもありません。
1998年、卒業を目前に控えながら、学校も学費支援もストップか、というところまで話し合われました。

父親は、最終的には、マスバテの親戚の家に強制的に預けることも覚悟していたようです。

しかしその父親の叱責と我慢強い説得が少しずつ効き、彼は休みながら学校に通い続け、1999年の春、何とか卒業にこぎつけました。

卒業式の日、彼はこういいました。

「この日、生まれて初めて、人に胸を張れる、晴れがましいという気持ちを味わったんだ」

と。

そしてこの卒業式がきっかけとなり、彼はシンナーと不良グループとの付き合いをやめることを、決心しました。

もう一度あの晴れがましさを味わいたいと、いつか中学校に行くという夢をもって、両親と一緒にゴミ山で働き始めました。

いつも眉間にしわを寄せていたお父さんが、笑顔で彼の様子を語ってくれました。
話の途中、タオルでぐるぐる巻きにした右の手で、アウトゥーロ君の背中をバンバン叩いていたのが印象的でした。

あんな嬉しそうな、そしてあんなに口数の多いお父さんを見るのは初めてでした。

けれども、みなの喜びに私も胸をなで下ろす一方で、私には納得できない思いが残りました。

人がさげすむスカベンジャー(ゴミ拾いをする人)として、信じられないくらい臭く、暑く、汚い場所で、一生懸命働き、毎日働き、家族の支え、生きてきた一人の立派な青年が、16歳にして、

初めて、たった小学校の卒業式で、

「人に胸を張れる」と感じていたことに、耐え難い矛盾を感じたのでした。



2000年7月10日午前8時

長雨のためパヤタスのゴミ山が崩壊しました。

同じような事故が1999年8月3日に起きていました。

700人以上の人々が死んだといわれています。


アウトゥーロ君お父さん も犠牲者に含まれていました。

アウトゥーロ・スリヤーノの死体は、頭がない状態で発見された。


彼は着ていた服によって身元が確認されました。




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